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大阪地方裁判所 昭和62年(わ)853号・昭62年(わ)1232号〔2〕 判決

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長谷川充弘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年に処する。

この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、山本瓦工業株式会社を経営するとともに不動産業を営むものであるが、

第一  大阪府八尾市志紀町南二丁目六番地に居住し、実父田中芳松の死亡(昭和五九年一〇月九日)により同人の財産を共同相続し、他の共同相続人田中千代子らとの遺産分割の協議によりその遺産の一部を相続した分離前の相被告人(以下、単に相被告人という。)田中健一、全日本同和会大阪府連合会岸和田貝塚支部長であつた相被告人濱吉里志、ヨシミ産業株式会社を経営するとともに不動産業を営む相被告人村木良己、行政書士である相被告人山本徳行及び右田中千代子らと共謀のうえ、右田中芳松にかかる架空債務を計上して相続税の課税価格を減少させる方法により右田中健一の相続税を免れようと企て、右田中健一の正規の相続の課税価格が三億八二八一万四〇六一円で、これに対する相続税額が一億六二六二万八七〇〇円であるにもかかわらず、右田中芳松には嶋本利男に対し六億三一六〇万円の債務があり、かつ、その債務のうち、右田中健一において三億円を、右田中千代子において三億三一六〇万円をそれぞれ負担すべきこととなつたごとく仮装するなどしたうえ、昭和六〇年四月六日、同市本町二丁目二番三号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右田中健一の相続税の課税価格が九二九四万七九六一円で、これに対する相続税額が一七五八万四一〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もつて、不正の行為により右田中健一の相続税一億四五〇四万四六〇〇円を免れた

第二  大阪府八尾市本町一丁目四番一号に居住し、実父谷村安三の死亡(昭和五九年五月一三日)により同人の財産を相続し、他の共同相続人谷村キヨヱ及び谷村弘一らとの遺産分割の協議によりその遺産の一部を相続した相被告人谷村安脩、前記相被告人濱吉里志、同村木良己、同山本徳行及び八光信用金庫本店営業部長であつた相被告人谷博文と共謀のうえ、右谷村安三にかかる架空債務を計上して相続税の課税価格を減少させる方法により右谷村安脩の相続税を免れようと企て、右谷村安脩の正規の相続税の課税価格が一億八七四六万二一二五円で、これに対する相続税額が七一六四万二六〇〇円であるにもかかわらず、右谷村安三には泉谷武雄に対し四億三〇〇〇万円の債務があり、かつ、その債務のうち、右谷村安脩において一億八〇〇〇万円を、右谷村キヨヱにおいて一億七五〇〇万円を、右谷村弘一において七五〇〇万円をそれぞれ負担すべきこととなつたごとく仮装するなどしたうえ、昭和五九年一一月六日、大阪府八尾市本町二丁目二番三号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右谷村安脩の相続税の課税価格が七四六万二一二五円で、これに対する相続税額が一一二万〇九〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もつて、不正の行為により右谷村安脩の相続税七〇五二万一七〇〇円を免れた

第三  兵庫県芦屋市東山町八番五号に居住し、実父片平正義の死亡(昭和六一年二月一六日)により同人の財産を共同相続し、他の共同相続人片平友子及び片平博三らとの遺産分割の協議により右片平正義の遺産の一部を相続した相被告人吉田眞知子、全日本同和会大阪府連合会岸和田支部長である相被告人野口忠夫、前記相被告人濱吉里志、同村木良己及び同山本徳行と共謀のうえ、右片平正義にかかる架空債務を計上して相続税の課税価格を減少させる方法により、右吉田眞知子の相続税を免れようと企て、右吉田眞知子の正規の相続税の課税価格が九三六〇万〇七五〇円で、これに対する相続税額が三八五八万八六〇〇円であるにもかかわらず、右片平正義には高橋英亟に対し一億五〇〇〇万円の、山科不二夫に対し二億四〇〇〇万円の各債務があり、かつ、高橋英亟に対する一億五〇〇〇万円の債務のうち、右吉田眞知子において五〇〇〇万円を、右片平友子において五〇〇〇万円を、右片平博三において五〇〇〇万円を、山科不二夫に対する二億四〇〇〇万円の債務のうち、右吉田眞知子において二〇〇〇万円を、右片平友子において一億五〇〇〇万円を、右片平博三において七〇〇〇万円をそれぞれ負担すべきこととなつたごとく仮装するなどしたうえ、昭和六一年八月一一日、兵庫県芦屋市公光町六番二号所在の所轄芦屋税務署において、同税務署長に対し、右吉田眞知子の相続税の課税価格が二三六〇万〇七五〇円で、これに対する相続税額が五一二万六〇〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もつて、不正の行為により右吉田眞知子の相続税三三四六万二六〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述及び検察官(昭和六二年二月二三日付、同月二六日付、同年三月二三日付(丁数6)、同月二五日付)に対する供述調書

一  相被告人濱吉里志の検察官(昭和六二年二月二六日付、同年三月四日付、同月二七日付・二通、同月三〇日付)に対する各供述調書

一  相被告人村木良己の検察官(昭和六二年二月二七日付・二通、同年三月二七日付)に対する供述調書

一  相被告人山本徳行の検察官(昭和六二年二月二四日付、同年三月二六日付)に対する供述調書

一  相被告人野口忠夫の検察官(昭和六二年三月一四日付、同月二一日付、同月二八日付)に対する供述調書

一  相被告人谷博文の検察官(昭和六二年三月二三日付、同月二五日付)に対する供述調書

一  松田忠信の検察官(昭和六二年三月一二日付、同月一三日付)に対する供述調書

一  立中善巳の検察官(昭和六二年二月二〇日付)に対する供述調書

一  團博史の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官篠原滋、同中谷孝良、同野田誠治各作成の査察官調査書

判示第一の事実につき

一  被告人の検察官(昭和六二年三月一日付、同月八日付)に対する供述調書

一  相被告人田中健一の検察官に対する供述調書四通(昭和六二年二月一八日付のものを除く。)

一  相被告人濱吉里志の検察官(昭和六二年三月五日付)に対する供述調書

一  相被告人村木良己の検察官(昭和六二年三月四日付、同月九日付)に対する供述調書

一  相被告人山本徳行の検察官(昭和六二年三月二日付、同月三日付)に対する供述調書

一  相被告人野口忠夫の検察官(昭和六二年三月二三日付)に対する供述調書

一  田中千代子(二通)、田中仁子、岩垣利忠、立中善巳の各検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官藤永昌博作成の脱税額計算書及び査察官調査書四通

一  大蔵事務官赤井良二、同内野恭介各作成の査察官調査書

一  八尾税務署長作成の昭和六二年三月三〇日付証明書

一  八尾市長作成の昭和六二年三月二六日付戸籍謄本

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官(昭和六二年三月五日付、同月九日付)に対する供述調書

一  相被告人谷村安脩の検察官に対する供述調書二通

一  相被告人濱吉里志の検察官(昭和六二年三月九日付)に対する供述調書

一  相被告人村木良己の検察官(昭和六二年三月六日付)に対する供述調書

一  相被告人山本徳行の検察官(昭和六二年三月六日付)に対する供述調書

一  今野仁睦の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官西村政則作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官長岡洋(二通)、同臼井治各作成の査察官調査書

一  八尾税務署長作成の昭和六二年三月二三日付証明書二通

一  八尾市長作成の昭和六二年六月三〇日付戸籍謄本

判示第三の事実につき

一  被告人の検察官(昭和六二年三月一七日付、同月二二日付、同月二三日付((丁数4)))に対する供述調書

一  相被告人吉田眞知子の検察官(昭和六二年三月一六日付、同月二〇日付)に対する供述調書

一  相被告人濱吉里志の検察官(昭和六二年三月一九日付、同月二四日付)に対する供述調書

一  相被告人村木良己の検察官(昭和六二年三月一八日付、同月二五日付)に対する供述調書

一  相被告人山本徳行の検察官(昭和六二年三月一九日付、同月三〇日付)に対する供述調書

一  相被告人野口忠夫の検察官(昭和六二年三月二六日付)に対する供述調書

一  片平友子の検察官に対する供述調書三通

一  松田忠信の検察官(昭和六二年三月一六日付、同月一七日付、同月二五日付、同月二六日付)に対する供述調書

一  佐竹秀夫の検察官に対する供述調書

一  立中善巳の検察官(昭和六二年三月五日付)に対する供述調書

一  大蔵事務官松本敏英作成の脱税額計算書及び査察官調査書

一  大蔵事務官松原秀樹作成の査察官調査書

一  芦屋税務署長作成の証明書二通

一  芦屋市長作成の戸籍謄本

判示第一、第二の各事実につき

一  相被告人谷博文の検察官(昭和六二年三月三日付、同月二六日付)に対する供述調書

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件三件のほ脱税額は合計二億四九〇〇万円余りにのぼり、そのほ脱率も極めて高く、被告人は、本件以外にも三五件の同種脱税事犯に関与したものであつて、その結果一億六〇〇〇万円もの利得を得たもので、その手口は、同和団体の運動の本来の趣旨、目的を全く逸脱してこれを悪用するなど、その犯情は悪いが、本件各本脱、加算税については支払ずみであること、被告人は、本件を反省し、右三八件についてその利得の全部を返還したこと、さらに、本件三件については、その利得分を返還しただけでなく、各納税義務者に課された加算税相当額を共犯者間の利得分に応じて負担していること、被告人の本件についての関与の度合、本件が報道されたことによりその経営する事業の得意先を失うなどの社会的制裁を受けていること等の事情からして、主文のとおり量刑し、その刑の執行を猶予するのを相当と考えた。

また、本件は相続税法違反事犯であるうえに、被告人は納税義務者ではないこと、本件によつて得た利得はすべて返還済みで、加算税についても一部負担する出捐をしていること、共犯者との刑の均衡等の諸事情からすると、罰金刑はこれを併科すべきものではないと思料した。なお、検察官は、罰金刑を併科することにより世間一般に対する警鐘とする必要があるとも主張するか、人は犯罪を犯したがゆえに罰せられるべきであつて、その結果いわゆる刑の一般予防的効果が得られるのはともかく、これを本来的あるいは附加的目的として刑罰を科する考えには賛同しない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 上原茂行)

税額計算書

(相続税法違反 吉田眞知子)

<省略>

修正貸借対照表

(片平正義-相続財産合計分)

<省略>

昭和61年2月16日 相続(吉田眞知子分)

<省略>

税額計算書

(相続税法違反 谷村安脩)

<省略>

修正貸借対照表

(谷村安三-相続財産合計分)

<省略>

昭和59年5月13日 相続(谷村安脩分)

<省略>

税額計算書

(相続税法違反 田中健一)

<省略>

修正貸借対照表

(田中芳松-相続財産合計分)

<省略>

昭和59年10月9日 相続(田中健一分)

<省略>

昭和六三年(う)第八一七号

控訴趣意書

相続税法違反 村木良己

右被告人に対する頭書被告事件につき、昭和六三年三月一四日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、検察官から申し立てた控訴の理由は左記のとおりである。

昭和六三年一二月一六日

大阪地方検察庁

検察官検事 渡邉悟朗

大阪高等裁判所第四刑事部 殿

目次

第一 控訴申立ての趣旨・・・・・・

第二 控訴申立ての理由・・・・・・

一 いわゆる脱税請負人が悪質かつ危険な存在であり、その反社会性、反道徳性は顕著であることについて・・・・・・

二 脱税請負人に対しては、安易にその懲役刑の執行を猶予すべきではなく、例外的に猶予するにしても、罰金刑を併科すべきであることについて・・・・・・

三 同種の事案に対する量刑の実情について・・・・・・

四 本件は実刑相当事案であり、懲役刑の執行を猶予するにしても、罰金刑を併科すべきであることについて・・・・・・

五 原判決が罰金刑を併科しなかった理由の誤りについて・・・・・・

第三 結び・・・・・・

第一 控訴申立ての趣旨

原判決は、罪となるべき事実として

「被告人は、ヨシミ産業株式会社を経営するとともに不動産業を営むものであるが

第一 大阪府八尾市志紀町南二丁目六番地に居住し、実父田中芳松の死亡(昭和五九年一〇月九日)により同人の財産を共同相続し、他の共同相続人田中千代子らとの遺産分割の協議によりその遺産の一部を相続した分離前の相被告人(以下、単に相被告人という。)田中健一、全日本同和会大阪府連合会岸和田貝塚支部長であつた相被告人濱吉里志、山本瓦工業株式会社を経営するとともに不動産業を営む相被告人山本實、行政書士である相被告人山本徳行及び右田中千代子らと共謀のうえ、右田中芳松にかかる架空債務を計上して相続税の課税価格を減少させる方法により右田中健一の相続税を免れようと企て、右田中健一の正規の相続の課税価格が三億八二八一万四〇六一円で、これに対する相続税額が一億六二六二万八七〇〇円であるにもかかわらず、右田中芳松には、嶋本利男に対し六億三一六〇万円の債務があり、かつ、その債務のうち、右田中健一において三億円を、右田中千代子において三億三一六〇万円をそれぞれ負担すべきこととなつたごとく仮装するなどしたうえ、昭和六〇年四月六日、同市本町二丁目二番三号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右田中健一の相続税の課税価格が九二九四万七九六一円で、これに対する相続税額が一七五八万四一〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もつて、不正の行為により右田中健一の相続税一億四五〇四万四六〇〇円を免れた

第二 大阪府八尾市本町一丁目四番一号に居住し、実父谷村安三の死亡(昭和五九年五月一三日)により同人の財産を相続し、他の共同相続人谷村キヨヱ及び谷村弘一らとの遺産分割の協議によりその遺産の一部を相続した相被告人谷村安脩、前記相被告人濱吉里志、同山本實、同山本徳行及び八光信用金庫本店営業部長であつた相被告人谷博文と共謀のうえ、右谷村安三にかかる架空債務を計上して相続税の課税価格を減少させる方法により、右谷村安脩の相続税を免れようと企て、右谷村安脩の正規の相続税の課税価格が一億八七四六万二一二五円で、これに対する相続税額が七一六四万二六〇〇円であるにもかかわらず、右谷村安三には泉谷武雄に対し四億三〇〇〇万円の債務があり、かつ、その債務のうち、右谷村安脩において一億八〇〇〇万円を、右谷村キヨヱにおいて一億七五〇〇万円を、右谷村弘一において七五〇〇万円をそれぞれ負担すべきこととなつたごとく仮装するなどしたうえ、昭和五九年一一月六日、大阪府八尾市本町二丁目二番三号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右谷村安脩の相続税の課税価格が七四六万二一二五円で、これに対する相続税額が一一二万〇九〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もつて、不正の行為により右谷村安脩の相続税七〇五二万一七〇〇円を免れた

第三 兵庫県芦屋市東山町八番五号に居住し、実父片平正義の死亡(昭和六一年二月一六日)により同人の財産を共同相続し、他の共同相続人片平友子及び片平博三らとの遺産分割の協議により右片平正義の遺産の一部を相続した相被告人吉田眞知子、全日本同和会大阪府連合会岸和田支部長である相被告人野口忠夫、前記相被告人濱吉里志、同山本實及び同山本徳行と共謀のうえ、右片平正義にかかる架空債務を計上して相続税の課税価格を減少させる方法により、右吉田眞知子の相続税を免れようと企て、右吉田眞知子の正規の相続税の課税価格が九三六〇万〇七五〇円で、これに対する相続税額が三八五八万八六〇〇円であるにもかかわらず、右片平正義には高橋英亟に対し一億五〇〇〇万円の、山科不二夫に対し二億四〇〇〇万円の各債務があり、かつ、高橋英亟に対する一億五〇〇〇万円の債務のうち、右吉田眞知子において五〇〇〇万円を、右片平友子において五〇〇〇万円を、右片平博三において五〇〇〇万円を、山科不二夫に対する二億四〇〇〇万円の債務のうち、右吉田眞知子において二〇〇〇万円を、右片平友子において一億五〇〇〇万円を、右片平博三において七〇〇〇万円をそれぞれ負担すべきこととなつたごとく仮装するなどしたうえ、昭和六一年八月一一日、兵庫県芦屋市公光町六番二号所在の所轄芦屋税務署において、同税務署長に対し、右吉田眞知子の相続税の課税価格が二三六〇万〇七五〇円で、これに対する相続税額が五一二万六〇〇〇円である旨の内容虚偽の相続申告書を提出し、もつて、不正の行為により右吉田眞知子の相続税三三四六万二六〇〇円を免れた

ものである。」

との公訴事実と同一の事実を認定しながら、検察官の懲役刑二年、罰金刑二、五〇〇万円の求刑に対し、「被告人を懲役一年六月に処する。この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。」旨言い渡したが、右判決は、懲役刑の執行を猶予した上、罰金刑を併科しなかつた点において、本件の諸般の情状に照らし、刑の量定が著しく軽きに失し不当であるから、到底破棄を免れないものと思料する。

第二 控訴申立ての理由

本件は、そのほ脱税額、ほ脱率、ほ脱の手段方法において特に悪質な相続税ほ脱事犯であり、加えて被告人には、その関与の動機、目的において酌量の余地がなく、果たした役割も重要であり、利得も多額である上、常習性が顕著に認められるから、本来懲役刑の執行を猶予すべき事案ではなかつたし、特段の配慮によりこれを猶予するのであれば、少なくとも罰金刑を併科しなければ適正な科刑が到底実現できないことは明らかであるにもかかわらず、原判決は、量刑に関し何ら説示することもなく、懲役刑の執行を猶予しながら、罰金刑を併科しなかつたものであり、この点において量刑著しく軽きに失しており、承服し難い。以下、その理由を述べる。

一 いわゆる脱税請負人が悪質かつ危険な存在であり、その反社会性、反道徳性は顕著であることについて

本件は、いわゆる脱税請負人グループによる悪質な脱税事犯であるところ、これら脱税請負人は、申告納税制度の租税秩序に対して積極的な妨害工作を行い、納税義務者一般の租税倫理を荒廃させて申告納税制度の根幹を脅かし、かつ、常習化の危険性を必然的に伴う点において、納税義務者たる脱税者と比較してもはるかに悪質かつ危険な存在であり、その反社会性、反道徳性が顕著に認められるから、申告納税制度の租税秩序を維持していくためには、特別予防、一般予防いずれの観点からも脱税請負人に対し特に厳重な処罰が必要である。

1 現行の租税制度は、申告納税制度を基調としていることがその最大の特色であるが、申告納税制度においては、何よりも納税義務者の自主性が尊重され、納税義務者が自己の責任においてその所得や課税価格を計算して誠実に申告納税することがその根幹をなしている。そのため、脱税がただ単に国家の財政的基盤を侵食する行為であるにとどまらず、担税力に応じて公平に納税義務を負うという国民の租税均衡負担の利益を侵害し、誠実に申告納税している他の納税義務者の犠牲のもとに不当に利得する反社会的、反道徳的な犯罪であることは言うまでもなく、納税義務者による脱税行為が厳しく非難される所以もここに存する。その中にあつて、本件で問題となる「脱税請負事犯」と呼ぶ租税犯罪は、比較的最近になつて出現した新しい類型の租税犯罪であるが、納税義務者ではない者が脱税工作の報酬を得ることのみを目的にして、納税義務者に接触し、租税負担を少しでも軽減したいと考える納税義務者の心理に乗じ、納税義務者から脱税工作の依頼を取り付け、もつぱら脱税のために申告納税手続等を代行し、虚偽過少申告等の不正行為により依頼者の租税負担を不当に免れさせるものであり、かかる脱税工作を請け負う者は「脱税請負人」とか「脱税コンサルタント」などと呼ばれ、脱税工作によつてもたらされた利益を納税義務者と分け合い、国家の財政的基盤をなす租税収入をかすめ取るものである。かかる脱税請負人にたやすく申告納税手続等を任せて租税負担を不当に免れる納税義務者も悪質であるが、私利私欲のために申告納税制度を巧みに利用し、国家の租税秩序に対して積極的な妨害工作を行う点において、脱税請負人は、納税義務者たる脱税者と比較してもはるかに悪質かつ危険な存在であり、その反社会性、反道徳性はとりわけ顕著である。

2 また、脱税事犯は、誠実に申告納税している他の納税義務者の犠牲のもとに不当に利得する犯罪であることから、納税義務者一般に対し、著しい不公平感を与え、その納税意欲を阻害する点においても、申告納税制度の根幹を脅かす反社会的、反道徳的な犯罪であると言われているところ、脱税請負事犯の場合には、納税義務者の納税意欲を著しく阻害することは一般の脱税事犯の比ではなく、国民一般の租税倫理すらも荒廃させてしまう危険性がある。

すなわち、まず、脱税請負事犯では、脱税請負人が脱税工作を請け負う過程において、租税負担を少しでも軽減させたいと願う納税義務者の心理を巧みに利用して脱税の依頼を取り付けるものであり、まずは、これによつて当該脱税の依頼者である納税義務者の租税倫理を堕落させ腐敗させてしまう。それだけでなく、申告納税制度を巧みに利用した脱税工作の成功は、これを請け負うことにより私利私欲をむさぼる脱税請負人までも出現させ、かかる者に申告納税手続等を任せて簡単に租税負担を免れる納税義務者が存在することは、申告納税制度の下で誠実に申告納税している正直な納税義務者に対し、他の脱税事犯とは比較にならない程の激しい衝撃を与え、深刻な不公平感を植えつけないではいない。

加えて、最近、その摘発が続いてきた脱税請負事犯の多くは、脱税請負人が税務調査に対する対策として同和団体の組織的勢威を殊更悪用する点に特色があることは本件につき後述するとおりであり、これら事犯においては脱税請負人が同和団体と何らかの関係を持つか、同和団体との関係を仮装した上、同和団体の税務指導などと称して虚偽過少の申告におよぶ事犯が多い。また、脱税請負人が納税義務者から脱税工作の依頼を取り付けるに当たつても、同和団体が関与する申告には税務調査が入ることはないとか、税務署も申告のとおり容認するなどと説明し、納税義務者をして、同和団体が関与する申告については税務当局が特段の配慮をして優遇してくれるかのごとく思い込ませようとする事例さえも認められ、かくては、納税義務者一般の間に同和団体のみが税務上特別有利な取扱いを受けられるかのごとき認識が形成されることとなり、申告納税制度を維持していく上で極めて憂慮すべき事態と言うほかない。最近の活発な税制改革論議において、「クロヨン」、「トウゴウサン」という言葉にも象徴されるように直接国税の捕捉率の不公平が問題とされ、そのことが納税義務者一般に現行の租税制度に対する不公平感を生じさせ、とりわけ、納税者の多くを占める給与所得者の抱いている不公平感には根強いものがあると言われる現状において、かりそめにも同和団体という特定の社会的団体のみが税務当局から特別の優遇を受けられるとの認識が社会一般にまん延すれば、租税均衡負担の理念はまさしく形がい化していき、一般の納税義務者が申告納税制度に対して抱いている不公平感が著しく助長され、定着していくであろうことは論を待たない。従来の税務当局の対応にも脱税請負人を増長させた原因が全くなかつたわけではないにしても、私利私欲のために同和団体の組織的勢威を悪用し、特定の社会的団体のみが税務当局から特別の優遇を受けられるとの認識を形成させる点において、本件のごとき脱税請負事犯は、納税義務者一般に対し著しい不公平感を与え、これを助長し定着させる反社会的、反道徳的な租税犯罪の最たるものと言わなければならない。

このように、脱税請負事犯は、他の脱税事犯以上に著しく納税義務者一般の納税意欲を阻害し、まさしく「正直に納税申告した者が馬鹿を見る。」との意識をまん延させ、租税倫理を荒廃させる危険性が強く、納税義務者が自己の責任においてその所得や課税価格を計算して誠実に申告納税することを期待しこれを基調としている申告納税制度の根幹を脅かすものであり、とりわけ、脱税請負人は、かかる脱税請負事犯の張本人として、租税負担を少しでも軽減させたいと願う納税義務者の心理に巧みに乗じて脱税の依頼を取り付け、脱税工作を主導的に敢行するものであるから、まさしく申告納税制度の租税秩序の根幹を脅かす悪質かつ危険な存在である。

3 ところで、納税義務者一般に共通の心理として租税負担を少しでも軽減させたいと願う面があることは否定できず、脱税に成功することによりもたらされる利益は時として莫大なものにもなり、とりわけ企業活動を営む者の場合には各期、各年の申告納税の時期が訪れるごとに脱税の誘惑を受けかねない上、税務当局に発覚しないように隠密裡に所得等を秘匿するための不正手段、手口には極めて多様なものがあるため、脱税の誘惑にはもろく、脱税事犯は納税者の多くが陥りやすい性質の犯罪である。しかし、それでも納税義務者の場合には、所得税や法人税については、原則として年に一回の申告納税だけが脱税の機会であり、本件のような相続税については、一生を通じても相続の機会がそう何回もあるはずがなく、その脱税などは単発的な犯行にとどまるのが通常である上、そもそも脱税を行う前提として、経済活動でそれなりの成果を収めたり、相続財産に恵まれることが必要であるから、脱税の機会自体が限定されている。

これに対し、脱税請負人の場合には、自らが経済活動を営んでその成果を収めることがなく、また、自らには相続の機会がなくとも、第三者の申告納税手続に首を突つ込んで脱税工作を請け負うだけでたやすく高額の報酬を取得できるため、安易な方法により報酬をむさぼる一かく千金の魅力に取りつかれやすいものである。そして、租税負担を少しでも軽減したいと願うことが納税義務者に共通の心理であり、かかる意識が存続する限り、これを巧みに利用しさえすれば、脱税工作の依頼者にはこと欠かない。また、所得税の脱税を請け負う場合には、その申告納税を代行する時期が原則として年一回に集中するが、法人税の脱税を請け負うのであれば、各法人の決算期が異なるため、その申告納税を代行できる時期が年間に多数存在し、相続税の脱税を請け負うのであれば、財産がある人間が死亡する都度、その六か月後には必ずその申告期限が到来するため、その申告納税を代行できる時期が年間に限りなく存在するのである。すなわち、脱税請負人から見れば、年間を通じて、第三者の納税義務者から脱税工作を請け負い、申告納税を代行する機会があり、その報酬にありつくことが可能なのである。このように、脱税請負人にとつては、脱税請負の機会は無限にあり、日常茶飯事のように脱税工作を繰り返すことができると言つても過言ではない。のみならず、脱税の請負を繰り返していけば、当然のごとく、依頼者と脱税請負グループとを結び付ける仲介者も増え、仲介ルートが張りめぐらされていき、納税義務者から脱税工作の依頼を取り付ける機会が多くなつていくことは必至である。かくして、脱税請負人の場合には、常習的に脱税の請負を反復累行していく傾向が強く、半ば職業化していくことも決してまれではなく、常習化の危険性を必然的に伴う点においても、納税義務者たる脱税者よりもはるかに悪質かつ危険な存在である。こうした脱税請負人が常習的に脱税の請負を反復累行し租税収入をかすめ取つていくことにより、国家の財政的基盤が著しく侵食されることは言うまでもなく、その危険性は納税義務者たる脱税者と比較してもはるかに強いのである。

4 以上述べてきたとおり、脱税請負人は、まず第一に、私利私欲のために申告納税制度の租税秩序に対して積極的な妨害工作を行う点において、第二に、著しく納税義務者一般の租税倫理を荒廃させ、申告納税制度の根幹を脅かす点において、第三に、常習化の危険性を必然的に伴い、脱税の請負に反復累行して国家の財政的基盤を脅かすおそれが強い点において、納税義務者たる脱税者と比較してもはるかに悪質かつ危険な存在であり、申告納税制度の根底を覆しかねない程の反社会性、反道徳性が認められる。もし、このような脱税請負人が社会にまん延していくような事態になれば、申告納税制度の租税秩序がその根底から崩壊していくであろうことは論を待たず、申告納税制度の租税秩序を維持していくためには、特別予防、一般予防いずれの観点からも、脱税請負人を特に厳重に処罰して、脱税請負事犯を根絶していく必要がある。

二 脱税請負人に対しては、安易にその懲役刑の執行を猶予すべきではなく、例外的に猶予するにしても、罰金刑を併科すべきであることについて

申告納税制度の根底を覆しかねない程の反社会性、反道徳性が認められる脱税請負人に対しては、安易にその懲役刑の執行を猶予すべきではなく、例外的に特段の情状により懲役刑の執行を猶予するのであれば少なくとも罰金刑を併科しなければ、適正な科刑は実現できない。

1 先にも指摘したとおり、申告納税制度の下においては、脱税事犯は、ただ単に国家の財政的基盤を侵食する行為であるにとどまらず、担税力に応じて公平に納税義務を負うという国民の租税均衡負担の原則を乱し、誠実に申告納税している他の納税義務者の犠牲のもとに不当に利得するものである上、納税義務者一般に対し、著しい不公平感を与え、その納税意欲を阻害する点において、申告納税制度の根幹を脅かす反社会的、反道徳的な犯罪であると言われている。そのため、納税義務者たる脱税者についても、その脱税行為の反社会性、反道徳性が厳しく非難され、ほ脱税額、ほ脱率、ほ脱の手段方法等において悪質な事犯と認められれば、当然、厳重な処罰に相当し、懲役刑の執行も猶予されないのである。昭和五五年以降、悪質な脱税事犯に対しては懲役刑の実刑判決が言い渡される事例が多くなつてきたのも、かかる脱税事犯の反社会性、反道徳性についての認識が深まり、裁判実務上も定着してきたからにほかならない。例えば、脱税者に対する懲役刑の実刑判決のリーディングケースと言うべき東京地方裁判所昭和五五年三月一〇日判決(判例時報九六九号一三頁)は、租税ほ脱犯の量刑理念として、「もし、その所得秘匿行為の態様において、著しく反社会的、反道徳的な行為、手段と認定できるものであり、かつ、その逋脱した金額とを併せみれば、他への悪性の伝播性が窺われ、誠実な納税申告者をして、その納税意欲(納税倫理)を著しく阻害させる程の悪質性が認め得る限り、かかる脱税者に対しては、責任主義に基づく刑事制裁としてそれ相応の懲役刑を科する必要があると言わねばならない。」、「また、懲役刑についても、刑責の軽重を問わず、一率に刑の執行猶予を付することになれは、犯罪と刑罰に関する一般社会の正義観念が損なわれ、法の尊厳性を危うくさせることになる。換言すれば、租税法秩序の基礎である申告納税制度のもとに一般納税者の納税意欲(納税倫理)を著しく損なわせ、誠実な納税者だけが馬鹿をみることとなるから、反社会性、反道徳性の強い事案に対しては、法の正義の観念からも刑の執行猶予は許されないといわねばならない。」と説示している(これに対する控訴審判決の東京高等裁判所昭和五七年一月二七日判決《税務訴訟資料一三七号二六五頁》も、一審判決後の情状を斟酌して刑期を短縮したものの、実刑判決を維持し、同判決は、上告棄却により確定している。)

2 脱税請負事犯について、適正な科刑を実現していくに当たつても、脱税事犯が申告納税制度の根幹を脅かす反社会的、反道徳的な犯罪であるとの認識に立脚し、悪質な事犯については安易に懲役刑の執行を猶予すべきでないとの基本姿勢を堅持していかなくてはならないが、かかる反社会的、反道徳的な租税犯罪の中でも、先に指摘したとおり、脱税請負人は、まず第一に、私利私欲のために申告納税制度の租税秩序に対して積極的な妨害工作を行う点において、第二に、著しく納税義務者一般の租税倫理を荒廃させ、申告納税制度の根幹を脅かす点において、第三に、常習化の危険性を必然的に伴い、脱税の請負を反復累行して国家の財政的基盤を脅かすおそれが強い点において、納税義務者たる脱税者と比較してもはるかに悪質かつ危険な存在であり、その反社会性、反道徳性がとりわけ顕著であると認められることにかんがみれば、それだけでも、脱税請負人に対しては、一般的に、納税義務者たる脱税者に対する場合よりも更に厳しい姿勢で臨むべきことは言うまでもない。そして、その脱税請負事犯の中にあつて、ほ脱税額、ほ税率、手段方法において悪質であると認められ、特に、納税義務者から脱税工作の依頼を取り付ける過程において殊更納税義務者の納税意欲を阻害して納税倫理を堕落させるような勧誘方法が採られており、ほ脱の手口、態様において伝播性、模倣性があり納税義務者一般に不公平感を抱かせるものであると認められる場合において、更に、その脱税請負人が脱税工作に関与した動機、目的、果たした役割、利得、常習性の程度等を慎重に検討した結果、動機、目的において酌量の余地がなく、果たした役割も重要なものであり、利得も多く、反復累行して脱税工作を請け負つてきたものと認められる事犯の脱税請負人に対しては、申告納税制度の租税秩序を維持していく上で、特別予防、一般予防いずれの観点からも、特に厳重に処罰する必要があり、安易にその懲役刑の執行を猶予すべきでない。

3 そして、かかる脱税請負人についても、利得の返還状況等の諸般の情状に照らし、懲役刑の執行を猶予するのが相当であると認められる場合があるにしても、その場合には少なくとも罰金刑を併科しなければ、適正な科刑の実現は到底期待できない。

そもそも、脱税事犯について、ほ脱税額に相当するまでの罰金刑を併科し得る規定が置かれているのは、脱税者に対して懲役刑を科しただけでは刑罰としての感銘力が期待できない場合が少なくないことを踏まえ、罰金刑も併科して十分な財産的苦痛を与え、脱税行為が経済的に決して見合わないだけでなく、かえつてより一層の損失をもたらすものであることを脱税者に感得せしめるとともに、世間一般に対しても同様の自覚を促すためである。すなわち、先にも指摘したように、申告納税制度の下では、納税義務者一般にとつても、脱税の誘惑には根強いものがあり、他の犯罪と比較すれば、脱税事犯は納税義務者の多くが陥りやすい性質の犯罪であることから、特別予防、一般予防の観点からの刑事政策的配慮が特に必要とされるべき犯罪類型である。また、脱税によりもたらされる利益は時として莫大なものにもなり、ほしいままに巨額の利益をむさぼることが可能な経済的利欲犯であることも脱税事犯に顕著な特質である。そこで、この脱税事犯に特有の巨額の利益をむさぼる経済的利欲犯の特質に着目しながら、応報、特別予防、一般予防のいずれの観点からも刑罰としての実効性を確保していく必要があるため、脱税事犯については、懲役刑を科するだけでなく、諸般の情状によつては罰金刑も併科して十分な財産的制裁を与えようとするのが法の趣旨である。とりわけ、懲役刑の執行が猶予された場合には、他の犯罪でも刑罰としての実質が空洞化し、形がい化しやすいとの指摘がなされていることにかんがみると、脱税事犯の場合には、これによつて巨額の利益を得ているという特殊事情が存するだけに、そうした脱税者に対し懲役刑を科しながら、その執行を猶予した場合には刑罰としての痛ようを与えないものになつてしまい、世間一般にも脱税事犯を安易に考える風潮を招きかねないおそれがある。そこで、刑罰としての苦痛、感銘力を確保し、特別予防、一般予防の効果を挙げるため、納税義務者たる脱税者については、本税、延滞税、重加算税等の全額を納付した事案であつても罰金刑が併科されるのが通常であり、また、懲役刑の執行が猶予されながら罰金刑も併科されない事例はまず有りえないことである。

他方、脱税請負人は、もつぱら報酬を得ることのみを目的にして脱税工作を請け負うものであり、その経済的利欲犯としての特質は、常習的に脱税の請負を反復累行していく危険性を伴う点において、納税義務者たる脱税者よりも更に顕著であり、特に、一かく千金を夢見る常習的な脱税請負人の場合には、その特質は納税義務者たる脱税者の比ではない。かかる特質を十分に踏まえ、応報、特別予防、一般予防のいずれの観点からも刑罰としての実効性を確保するためには、脱税請負人については、懲役刑を科するだけでなく、罰金刑も併科して十分な財産的制裁を与えなくてはならず、納税義務者たる脱税者の場合以上に罰金刑を併科する必要があると言わなくてはならない。

また、一般的に見ても、納税義務者たる脱税者よりはるかに悪質かつ危険な存在である脱税請負人に対し、懲役刑の執行を猶予しながら、罰金刑も併科しないということになれば、脱税請負人を納税義務者よりもはるかに寛大に取り扱う結果になりかねないし、何よりも納税義務者が本税、延滞税、重加算税等の全額を納付しても罰金刑を併科されていることと著しく科刑の均衡を失するものである。特に、その脱税請負事犯がほ脱税額、ほ脱率、手段方法において悪質であると認められ、その脱税請負人が脱税工作に関与した動機、目的において酌量の余地がなく、果たした役割も重要なものであり、利得も多く、反復累行して脱税工作を請け負つてきたと認められるような場合には、安易にその懲役刑の執行が猶予されるべきではないのであるから、このような脱税請負人について、諸般の情状に照らし、懲役刑の執行を猶予するような場合には、少なくとも罰金刑を併科すべきである。また、脱税請負人が脱税による利益の上前をはねたと言うべき利得を納税義務者に返還するのは当然のことであり、納税義務者たる脱税者の場合には本税、延滞税、重加算税等の全額を納付しても、罰金刑を併科されるのに対し、納税義務者たる脱税者よりも悪質な脱税請負人が利得を返還したからと言つて、懲役刑の執行を猶予されるばかりか、罰金刑も併科されないというのであれば、脱税の請負が発覚しても、儲けた利得さえ返還すればよいことになり、刑罰としての痛ようを全く感じさせないものとなつてしまい、適正な科刑の実現は到底期待できない。以上のとおりであるから、脱税請負人については、懲役刑の執行を猶予する以上は、少なくとも罰金刑を併科し、脱税の請負が経済的に決して見合わないだけでなく、かえつてより一層の損失をもたらすものであることを脱税請負人に十分に感得せしめ、世間一般に対しても同様の自覚を促さなくてはならないのである。

三 同種の事案に対する量刑の実情について

東京地方裁判所における裁判例では、脱税請負人に対して容易に懲役刑の執行を猶予しない厳しい姿勢が貫かれていることは歴然としており、大阪地方裁判所及び京都地方裁判所における裁判例では、この点で多少その徹底を欠く傾向があるにしても、必ず罰金刑を併科することで刑罰の実効性の確保に留意されている。

1 脱税請負人について、東京地方裁判所、大阪地方裁判所及び京都地方裁判所において、脱税請負事犯だけで起訴されて有罪判決が言い渡され、既に確定している事例(一審の判決が破棄され、控訴審の判決が確定しているものも含む。)を調査したところ、東京地方裁判所の事例では、別表一・量刑調査表(1)のとおり、一七件(件数は脱税請負人の人員である。以下同じ。)のうち、罰金刑を併科したものはないものの、懲役刑の執行を猶予されなかつたものが一四件を占め、大阪地方裁判所の事例では、別表二・量刑調査表(2)のとおり、四件のうち、懲役刑の執行を猶予されたものが三件あるが、すべてについて罰金刑が併科されており、京都地方裁判所の事例では、別表三・量刑調査表(3)のとおり、二二件のうち、懲役刑の執行を猶予されたものが二一件あるが、すべてについて罰金刑が併科されている(控訴審で立証予定。なお、他に、一審の京都地方裁判所で懲役刑の実刑判決が言い渡され、控訴または上告中のものが数件ある)。

2 東京地方裁判所の事例一七件について、事案の内容等を検討してみると、まず、その加担した脱税事犯のほ脱税額の各合計額が最高で二億八、七二一万九、六〇〇円、最低で四、六四二万四、九〇〇円であり、本件を上回るほ脱税額の事案は別表一・量刑調査表(1)の番号4・6の二件しかなく、いずれも懲役刑の執行が猶予されていない。他方、罰金刑が併科されたものはなく、すべて懲役刑のみを科しているが、懲役刑の執行が猶予されたのは同表の番号3・5・8の三事例である。

懲役刑の執行が猶予された事例のうち、番号3の事例は、被告人が不動産業者として納税義務者から土地を買い受けるに当たり、納税義務者と共謀して譲渡所得を圧縮した事案であり、脱税の請負を業としていた者でもない上、一件のみの脱税であり、ほ脱税額も約四、六四〇万円と本件とは比較にならないほど低いものである。また、番号5の事例は、一件のみの脱税であり、被告人の立場が従属的なものであり、利得も被告人の主犯に対する負債と相殺されていて現実に受け取つたものではなく、さしたる前科もないものであり、番号8の事例は、一件のみの脱税であり、被告人には金銭的利得がない事案である。このように、懲役刑の執行が猶予され罰金刑が併科されなかつた事例については、いずれも特段の事情が認められるものであり、後述する被告人の犯情と比較しても、十分に酌量できる事案ばかりである。

他方、懲役刑の執行を猶予されなかつた事例のうち、同表の番号9・10・12の事例は、同一の納税義務者にかかるものであり、被告人らが報酬稼ぎに納税義務者を利用した面が強い事案で、納税義務者には脱税による利益がほとんど残らなかつたという点で悪質な事犯である。しかし、番号9の事例は、被告人が加担した脱税事犯が一件で、そのほ脱税額も約六、〇六〇万円であり、実質的に被告人の利得が返還済みであり、番号10の事例は、被告人がその親族の納税義務者を食い物にした悪情状があるものの、常習性は認められず、そのほ脱税額も本件よりは低く、利得を全額返還しただけでなく、延滞税、重加算税等の納付又は予納分として納税義務者の名義で四、四〇六万四、三〇〇円を納付した上、法律扶助協会にも一、〇〇〇万円の贖罪寄付をしており、番号12の事例は、ほ脱税額が本件よりは低く、利得を全額返還し、法律扶助協会にも一、〇〇〇万円の贖罪寄付をしているのであるが、これらの被告人らに有利な事情も考慮しながら、それでも懲役刑の執行を猶予していないのである。また、番号17の事例は、起訴されたのが一件であり、そのほ脱税額も約一億三、八〇〇万円と本件より少なく、利得は多いものの、これを若干上回るものを返還している上、法律扶助協会にも一五〇万円の讀罪寄付をしているのであるが、これらの事情を考慮しながら、やはり懲役刑の執行を猶予していないのである。

3 大阪地方裁判所の事例四件について、事案の内容等を検討してみると、まず、その加担した脱税事犯のほ脱税額の各合計額が最高で一億九、〇〇一万九、〇〇〇円、最低で三、一九一万四、九〇〇円であり、本件を上回るほ脱税額の事案はない。懲役刑の執行が猶予されなかつたのは別表二・量刑調査表(2)の番号1の一件だけであるが、そのほ脱税額は一億九、〇〇一万九、〇〇〇円と本件よりも少なく、利得も全部で二、二五〇万円と本件の被告人のほぼ半分程度であり、これを全額返還するだけでなく、共犯者等の分も含めて総額で四、三七五万円を返還している上、さしたる前科もないものの、懲役一年六月、罰金一、五〇〇万円の刑が言い渡されている。また、他の三事例についても、すべて利得が全額返還されているが、いずれも罰金刑が併科されており、罰金額の最高が八〇〇万円で、最低が三〇〇万円である。このように、四事例とも、利得を全額返還していても罰金刑が併科されており、犯情の悪質な一事例については懲役刑の執行も猶予されていないのである。

4 京都地方裁判所の事例二二件について、事案の内容等を検討してみると、まず、その加担した脱税事犯のほ脱税額の各合計額が最高で八億五、五五七万六、五〇〇円、最低で一、三六八万六、八〇〇円である。懲役刑の執行が猶予されなかつたのは別表三・量刑調査表(3)の番号22の一件だけであり、これは、そのほ脱税額の合計額が八億五、五五七万六、五〇〇円と本件をはるかに超える大型脱税事件ではあるが、一億三五〇〇万円の利得を全額返還し、一〇〇万円の贖罪寄付をしていることを考慮した上で、懲役一年四月、罰金七〇〇万円の刑が言い渡されている。他の二二事例については、懲役刑の執行は猶予されたものの、いずれも罰金刑が併科されており、罰金額の最高が二、八〇〇万円で、最低が八〇万円である。これらのうち、同表の番号1の事例は金銭的利得がなく、番号5の事例は利得を全額返還しており、番号2・3・8の事例は、利得の大半を返還しているが、これらの事情を踏まえた上で罰金刑が併科されているのである。

5 このように、東京地方裁判所の裁判例では、脱税請負人に対し懲役刑の執行を猶予することが極めて限られていることが顕著であり、懲役刑の執行を猶予するかどうかという観点において、脱税請負人に対して非常に厳しい傾向にあることは歴然としている。すなわち、脱税請負人に対し懲役刑の執行猶予を容易に認めない姿勢を貫くことにより、申告納税制度の根底を覆しかねない程の反社会性、反道徳性を有する脱税請負人に対する刑罰の実効性を十分に確保し、再犯抑止、一般予防の効果を挙げようとしているのであり、敢えて罰金刑を併科しなくとも、脱税請負人に対し適正な科刑が実現されているのである。したがつて、罰金刑を併科をしなかつた点だけをとらえて、直ちにこれと歩調を合わせるのは失当であり、まず、懲役刑の執行を猶予するかどうかの点で東京地方裁判所の裁判例が容易に執行猶予を認めない姿勢を貫いていることを十分考慮しなくてはならない。また、大阪地方裁判所及び京都地方裁判所の各裁判例では、脱税請負人に対し懲役刑の執行猶予を容易に認めない姿勢を貫くという点においては、多少その徹底を欠く傾向があるにしても、必ず罰金刑を併科することで刑罰の実効性の確保に留意されているのである。

四 本件は実刑相当事案であり、懲役刑の執行を猶予するにしても、罰金刑を併科すべきであることについて

本件は、そのほ脱税額、ほ脱率、ほ脱の手段方法において特に悪質な脱税請負事犯であり、被告人には、その関与の動機、目的において酌量の余地がなく、果たした役割も重要であり、利得も多額の上、常習性が顕著に認められるから、本来、懲役刑の執行を猶予するべき事案ではなく、特段の配慮によりこれを猶予するのであれば、少なくとも罰金刑を併科しなければ適正な科刑は到底実現できない。

1 本件は、被告人、山本實、濱吉里志、山本徳行及び野口忠夫の脱税請負グループが納税義務者の田中健一、谷村安脩及び吉田眞知子らの依頼を受けて敢行した三件の相続税ほ脱事犯であり、まず、そのほ脱税額、ほ脱率を見ると、田中健一らの依頼により同人の相続税をほ脱した事犯(判旨第一の事実。以下「田中健一関係」という。)では、ほ脱税額が一億四、五〇四万四、六〇〇円、ほ脱率が約八九・二パーセントであり、谷村安脩の依頼により同人の相続税をほ脱した事犯(判旨第二の事実。以下「谷村安脩関係」という。)では、ほ脱税額が七、〇五二万一、七〇〇円、ほ脱率が約九八・四パーセントであり、吉田眞知子らの依頼により同人の相続税をほ脱した事犯(判旨第三の事実。以下「吉田眞知子関係」という。)では、ほ脱税額が三、三四六万二、六〇〇円、ほ脱率が約八六・七パーセントである。これら三件の相続税ほ脱事犯は、個別に見ても、いずれもほ脱税額が非常に高額であり、ほ脱率も極めて高い上、三件を合わせると、ほ脱税額が合計で二億四、九〇二万八、九〇〇円にも達し、ほ脱率も平均で約九一・三パーセントと極めて高く、ほ脱税額、ほ脱率のいずれの点においても重大かつ悪質な大型脱税事件である。また、ほ脱税額、正当税額について、被告人は、その概算額を十分に認識していたものであり、この非常に高額のほ脱税額と著しく高率のほ脱率は、被告人の納税意識がいかに低かつたかを如実に示すものである。

なお、本件各犯行にかかる不正申告により全相続人についてほ脱した税額は、田中健一関係では一億五、〇〇二万六、三〇〇円、谷村安脩関係では九、七五九万六〇〇円、吉田眞知子関係では九、七三八万五、三〇〇円となつており、合計すると三億四、五〇〇万二、二〇〇円にも達するものである(各脱税額計算書・記録《以下、「記録」の表示を省略する。》二〇三丁の三表、四五三表、七五九表)。

2 被告人らは、納税義務者から脱税工作の依頼を取り付けるに当たり、租税負担を少しでも軽減させたいと考える納税義務者の心理を巧みに利用し、金融機関に対する社会的な信頼まで悪用しながら、殊更納税義務者の納税意欲を阻害する勧誘活動を積極的に行つていたものである。

まず、本件各犯行では、納税義務者の田中健一、谷村安脩及び吉田眞知子らは、いずれも当初から脱税を行おうと考えていたものではなく、被相続人が死亡して間もない時期に税理士等に対して正規の相続税の申告手続を依頼し、税理士等が正規の方法により相続税の申告を行うべく相続財産を正当に評価して相続税申告書の作成等を進めていたもので、被告人らの働きかけさえなければ当然の成り行きとして正規の税額による申告納税が行われていたはずの事案である。特に、谷村安脩関係では、正規の相続税額の概算額が算出され、谷村安脩がその納税資金を捻出しなくてはならないと考え、八光信用金庫本店営業部長の谷博文に対し融資を申し込むに至つていたのであり、吉田眞知子関係では、申告期限が約一か月先に近づき、正規の相続税申告書、遺産分割協議書も作成されていたのである(田中健一関係について田中健一の検察官調書・二〇三丁の一六四八表ないし一六四九裏、田中千代子の検察官調書・同丁の一八三裏ないし一八四裏、岩垣利忠の検察官調書・同丁三二五裏ないし三三二裏、谷村安脩関係について谷村安脩の検察官調書・同丁の二五五一表ないし二五五六表、今野仁睦の検察官調書・同丁の七一九表ないし七二四表、吉田眞知子関係について吉田眞知子の検察官調書・同丁二六三五表ないし二六三七表、片平友子の検察官調書・同丁一一九〇裏ないし一一九四表)。

他方、本件脱税請負グループの山本實は、昭和五九年夏から秋にかけてのころ、取引先の八光信用金庫の本店営業部長の谷博文に対し、「相続税や譲渡所得税について架空債務等を計上して全日本同和会を通じて申告すれば、納税資金と謝礼金を合わせても正当税額の半分程度で処理できる。」旨説明して、その脱税工作の依頼者の紹介を頼み、納税義務者が脱税によつて浮かした資金を八光信用金庫に預金してもらうことに魅力を感じた谷博文から、脱税工作の依頼者を紹介してもらうことになり、更に谷博文や山本實は八光信用金庫弥刀支店支店長松田忠信に対しても脱税工作の依頼者の紹介を頼んでいたものである(山本實の検察官調書・二〇三丁の一九五三裏ないし一九六〇表、二〇九五裏ないし二一〇〇裏、二一六九裏ないし二一七一裏、谷博文の検察官調書・同丁の二八〇七裏ないし二八一〇裏、二八六九表ないし二八七六裏、松田忠信の検察官調書・同丁の一三〇〇裏ないし一三〇七表)。

そして、田中健一関係では、谷博文の実兄谷馨を介して田中健一の母田中千代子から谷博文に対して相続税の相談があつたことから、同人が山本實を田中健一及び田中千代子に紹介し、谷村安脩関係では、谷村安脩が八光信用金庫に納税資金の融資を申し込んできたことから、谷博文が山本實を谷村安脩に紹介し、吉田眞知子関係では、吉田眞知子がかねてより友人の松田忠信に相続税の相談をしたところから、同人が山本實を吉田眞知子やその母片平友子に紹介した。こうした経過で金融機関のルートを使つて紹介を受けており、谷博文らの勧めもあつて納税義務者らの警戒心がさほど強くなく、かつ、納税義務者が少しでも税金を安くしたいと考えていることに巧みに乗じ、山本實は、各納税義務者らに対し、当初は申告金額を正規税額の約一ないし二割程度にすることを明確に説明しないで、納税義務者らの心理的な抵抗をやわらげながら、脱税の方法として、「被相続人に多額の借金があつたことにして相続税を安くするが、同和団体を通じて申告するので税務調査が入らず税務署も申告のとおり容認する。正規の税額の半分程度を出してくれれば納税分と謝礼金を賄つて処理する。」旨の説明をして言葉巧みに脱税を勧め、納税義務者らに脱税を決意させたものである。また、被告人も、山本實が金融機関のルートを使つて脱税工作の依頼を取り付けていることやその勧誘方法を十分認識し、積極的に容認していたものである(被告人の検察官調書・二〇三丁の二二一六表ないし二二一七裏、田中健一関係について田中健一の検察官調書・同丁の一六五五裏ないし一六六二裏、一七一四表ないし一七一七表、田中千代子の検察官調書・同丁の一八七表ないし二〇二表、伏見精久の検察官調書・同丁の三七六裏ないし三八六表、谷博文の検察官調書・同丁の二八三五表ないし二八四六裏、山本實の検察官調書・同丁の一九六四表ないし一九七六裏、被告人の検察官調書・同丁の二二二四裏ないし二二三一裏、谷村安脩関係について谷村安脩の検察官調書・同丁の二五五六表ないし二五六六裏、谷博文の検察官調書・同丁の二八一二表ないし二八二一裏、山本實の検察官調書・同丁の二〇三三表ないし二〇四七裏、被告人の検察官調書・同丁の二二七〇表ないし二二七二表、吉田眞知子関係について吉田眞知子の検察官調書・同丁の二六三四表ないし二六六一裏、片平友子の検察官調書・同丁一一九五表ないし一二一〇表、松田忠信の検察官調書・同丁の一三一四表ないし一三一九裏、一三二〇表ないし一三三八裏、山本實の検察官調書・同丁の二一〇一表ないし二一二六裏、被告人の検察官調書・同丁の二二九四裏ないし二二九五表)。

このように、本件各犯行は、いずれも本来ならば正規の申告納税手続が行われていたはずであつたにもかかわらず、被告人らにおいて、租税負担を少しでも軽減させたいと願う納税義務者の心理を巧みに利用し、金融機関に対する社会的な信頼まで巧妙に利用しながら、ことさら納税義務者の納税意欲を阻害する勧誘活動を積極的に行つて脱税工作の依頼を取り付けたものである。かかる誘いに安易に乗つて、被告人らに脱税工作を依頼した納税義務者らももちろん強く非難されるべきことは当然であるにしても、本件各犯行では、脱税請負人の主導性が顕著に認められ、私利私欲のために国家の租税秩序に対する積極的な妨害工作を行い、納税義務者の納税意欲を阻害し、その納税倫理を堕落、腐敗させてしまう脱税請負人に特有の悪質かつ危険な性質が如実に表れている。

3 本件各犯行のほ脱の手口、態様は、架空の債務の計上により相続税の課税価格を大幅に圧縮し、同和団体の運動を私利私欲のために悪用しながら虚偽過少の申告を行つたという悪質なものである。

すなわち、まず、相続により取得した財産の課税価格算定における債務控除に関する相続税法第一三条の規定を悪用し、田中健一関係では、六億三、一六〇万円の被相続人の架空債務を計上して相続人田中健一がそのうち三億円を承継したように仮装し、谷村安脩関係では、四億三、〇〇〇万円の被相続人の架空債務を計上して相続人谷村安脩がそのうち一億八、〇〇〇万円を承継したように仮装し、吉田眞知子関係では、三億九、〇〇〇万円の被相続人の架空債務を計上して相続人吉田眞知子がそのうち七、〇〇〇万円を承継したように仮装し、いずれも相続税の課税価格を大幅に圧縮した虚偽過少の遺産分割協議書、相続税申告書を作成して所轄税務署に提出したものである(田中健一関係について相続税申告書謄本・二〇三丁の九表、二二表、五二表、査察官調査書・同丁の一〇〇表ないし一〇三表、山本徳行の検察官調書・同丁の二四二二裏ないし二四三二裏、谷村安脩関係について相続税申告書謄本・同丁の四五六表、四六八表、四八四表、査察官調査書・同丁の五二二表ないし五二六表、山本徳行の検察官調書・同丁の二四六一裏ないし二四六八裏、吉田眞知子関係について相続税申告書謄本・同丁の七六三表、七七三表、七七五表、査察官調査書・同丁の八三二表ないし八三六表山本徳行の検察官調書・同丁の二五〇六表ないし二五一三表)。こうした架空債務の計上により課税価格を圧縮するという手口は、伝播性、模倣性が特に懸念される極めて悪質なものである。

そして、この虚偽過少の相続税申告書を税務署に提出するに当たつては、申告書に田中健一関係では「全日本同和会大阪府連合会住吉支部高田菊雄」、谷村安脩関係では「全日本同和会大阪府連合会岸貝支部浜吉里志」、吉田眞知子関係では「全日本同和会大阪府連合会岸和田支部支部長野口忠夫」とゴム印で表示し、全日本同和会大阪府連合会が関与した申告であることをことさら強調している(田中健一関係について相続税申告書謄本・二〇三丁の六表、高田菊雄の検察官調書・同丁四三七表ないし四四三表、濱吉里志の検察官調書・同丁の一七九一表ないし一七九二表、一七九九表ないし一八〇一裏、谷村安脩関係について相続税申告書謄本・同丁の四五六表、濱吉里志の検察官調書・同丁の一八二三裏ないし一八二七裏、吉田眞知子関係について相続税申告書謄本・同丁の七六三表、濱吉里志の検察官調書・同丁の一八五一裏ないし一八五五裏)。これは、全日本同和会大阪府連合会の組織的勢威を背景とすれば、税務調査を受けることがなく、虚偽過少の申告がまかり通るであろうとの計算によつていたものであり、同和団体の運動の本来の趣旨、目的を全く逸脱して私利私欲のために同和団体の運動を積極的に悪用する大胆不敵で危険な発想に基づくものである。被告人らにかかる発想を抱かせた背景には、税務当局の対応にも被告人らを増長させた原因がなかつたわけではないにしても、申告納税制度の下で誠実に申告納税しているまじめな納税者の感覚からすると到底許し難いものであり、納税義務者一般の間に、特定の社会的団体のみが税務当局から特別の優遇を受けられるとの誤つた認識を形成させる危険性が極めて強い。

このように、架空債務の計上により課税価格を大巾に圧縮するという伝播性、模倣性が特に懸念される手口を用い、同和団体の運動を私利私欲のために悪用しながら虚偽過少の申告を行つた点においても、本件各犯行の手口、態様は、極めて悪質かつ大胆であり、その反社会性、反道徳性はとりわけ顕著である。

4 本件各犯行の脱税工作の核心部分をなす虚偽過少の申告は濱吉里志及び山本徳行らが行つていたものであるが、被告人は、架空の債務を計上して課税価格を大幅に圧縮し、全日本同和会大阪府連合会の組織的な勢威を背景として虚偽過少の申告を行うという本件各犯行の手口、態様を十分に知悉し、同和団体の組織的勢威を背景とすれば税務調査を受けることがなく虚偽過少の申告がまかり通るであろうとの認識のもとに、濱吉里志及び山本徳行らと一体となつて本件各犯行を積極的に遂行したものである(被告人の検察官調書・二〇三丁の二一九六表ないし二二〇八表、二三二五表ないし二三二八表、田中健一関係について被告人の検察官調書・同丁の二二五九裏ないし二二六〇裏、吉田眞知子関係について被告人の検察官調書・同丁の二三一八表ないし二三二〇裏)。

そして、本件の脱税請負グループにおいて、被告人は、山本實とともに、脱税工作の依頼を取付け、申告納税手続に必要な各種資料や納税資金、謝礼金の手配、受渡しを行うという極めて重要な役割を担当し、山本實と行動をともにしていたものである。被告人は、もともと山本實と共同で不動産業を営んでおり、被告人にとつては山本實が一心同体のパートナーとも言うべき存在であり、脱税請負グループに加わるに当たつても被告人と山本實が対等の立場で相談した上で、積極的に濱吉里志らと接触を持ち、一連の脱税請負工作においても、共同事業の一環であるかのような感覚で、山本實と被告人とがそれぞれの持ち前に応じて脱税工作における役割を分担する関係にあつた。すなわち、本件各犯行では、年長者で顔が広く社会的信頼のある山本實が納税義務者らとの交渉で表面に出ることが多く、山本實において、前述のとおり、納税義務者から巧みに脱税工作の依頼を取付け、納税義務者と面談して納税義務者が納税分、謝礼金として差し出す金額を取り決め、納税義務者と濱吉里志及び山本徳行らとの間において、申告納税手続に必要な各種資料や納税資金、謝礼金の手配、受渡しを行い、申告納税の日程の取り決め、その連絡調整にもあたるなど、一連の脱税工作にあたり、極めて重要な役割を果たしたものであるが、これも被告人に山本實との一心同体の緊密な関係に基づいて、山本實が被告人の役割も引き受けていたのにすぎない。また、被告人自身は、逐次、山本實から脱税請負工作の進展状況について連絡を受け、田中健一関係では、山本實が田中健一らに対して脱税の方法、条件等を説明し、言葉巧みに脱税工作の依頼を取り付け、納税分と謝礼金として差し出させる金額を取り決めるに当たつては、これに同席して相づちを打ち、山本徳行が田中健一らから正規の申告書・遺産分割協議書を受領したり、田中健一らが虚偽過少の申告書に押印したりした際には、これに立ち会い、被告人と山本實が連名で田中千代子宛に差し入れた念書をあらかじめ作成して用意し、納税手続を代行し、谷村安脩関係では、谷村安脩が虚偽過少の申告書に押印した際には、これらに立ち会い、被告人の部下團博史に命じて納税手続を代行させ、その納付書を谷村安脩に交付すべく山本實に届けさせ、吉田眞知子関係では、山本實が吉田眞知子から正規の申告書、遺産分割協議書を受領したり、山本徳行に届けたりした際には、これらに立ち会い、團博史に命じて納税手続を代行させ、その納付書を吉田眞知子らに交付すべく山本實に渡すなどしていたほか、三件のいずれについても、申告納税の日には、必ず脱税請負グループの一員としてその集合場所に顔を出し、納税義務者から納税分、謝礼金として受け取った現金を集合場所まで運搬し、報酬の分配にも立ち会つていたものである。このように、被告人は、山本實との一心同体の関係に基づいて、一連の脱税工作で重要な役割を果たし、本件各犯行に積極的に関与していたもので、被告人が従属的に関与したにすぎないと言うことは到底できない(第二の四・2項に記載の各証拠のほか、被告人の検察官調書・二〇三丁の二一九四裏ないし二一九五裏、二一九六表ないし二二〇七表、二二一六表ないし二二二四裏、團博史の検察官調書・同丁の一六〇八表ないし一六三二表、田中健一関係について田中健一の検察官調書・同丁の一六八九裏ないし一六九〇裏、一六九五裏ないし一七〇二表、田中千代子の検察官調書・同丁の二三二表ないし二四〇表、田中仁子の検察官調書・同丁の三〇六裏ないし三一二裏、伏見精久の検察官調書・同丁の三九六裏ないし四〇六裏、濱吉里志の検察官調書・同丁の一七七三表ないし一七七四裏、一七八五裏ないし一七九八裏、一八〇二表ないし一八〇二裏、山本徳行の検察官調書・同丁の二三八二裏ないし二三八四表、二四一七表ないし二四五二表、山本實の検察官調書・同丁の二〇〇三裏ないし二〇一九裏、被告人の検察官調書・同丁の二二四一裏ないし二二五八裏、谷村安脩関係について谷村安脩の検察官調書・同丁の二五八〇裏ないし二五九六裏、谷博文の検察官調書・同丁の二八二三表ないし二八三二表、濱吉里志の検察官調書・同丁の一八一三裏ないし一八一八表、山本徳行の検察官調書・同丁の二四五八表ないし二四六〇裏、二四六八裏ないし二四八九裏、山本實の検察官調書・同丁の二〇四九裏ないし二〇六六裏、被告人の検察官調書・同丁の二二七三裏ないし二二八六表、吉田眞知子関係について吉田眞知子の検察官調書・同丁の二六六九表ないし二六七〇裏、松田忠信の検察官調書・同丁の一三五一裏ないし一三六〇表、一三八一表裏、一三九八表ないし一四〇七、山本徳行の検察官調書・同丁の二四九七裏ないし二五〇四表、二五一三表ないし二五二六裏、山本實の検察官調書・同丁の二一二八表ないし二一三七、二一三八裏ないし二一六一表、被告人の検警官調書・同丁の二二九二裏ないし二三〇八、二三〇九表ないし二三二二表)。

また、被告人と山本實が担つていた役割が重大であり、本件脱税請負グループにおいて重要な地位を占めていたものであることは、次に述べる報酬の取得状況によつて明らかであり、被告人、山本實及び濱吉里志らの間で脱税の請負をしていく謀議がまとまつたころに、被告人らへの報酬の分配額が多くなることについて、濱吉里志は、被告人や山本實に対し「こないしておかんと社長らが仕事をようけ取つてきてくれませんがな。まあひとつ頑張つて客を見つけて下さいや。」等と言つているのであり、このことにも濱吉里志が被告人や山本實の役割を特に重視していたことが十分に窺われる(山本實の検察官調書・二〇三丁の一九四三裏ないし一九四五裏、濱吉里志の検察官調書・同丁の一七四八表ないし一七五〇裏、被告人の検察官調書・同丁の二二〇八裏ないし二二一〇裏)。そして、被告人と山本實との間では、後述の吉田眞知子関係の一、〇〇〇万円を除くと、必ず均等に報酬を分け合つており、この点にも被告人と山本實の関係が一心同体の緊密なもので、かつ対等であつたことが認められるのである。

5 被告人は、高額の報酬に目がくらみ、一かく千金の魅力に取りつかれ、もつぱら高額の報酬にありつくことのみを目的として、まさしく私利私欲のために本件各犯行に加担したものであり、その動機、目的において酌量すべき余地が全くない。

本件各犯行の報酬として、被告人は、田中健一関係で約一、六七〇万円、谷村安脩関係で約一、〇五五万円、吉田眞知子関係で約一、二八三万円の合計約四、〇〇八万円もの多額の利得を得ていたものである。そして、本件の脱税請負グループの間での報酬の分配状況を見ると、本件の三件により取得した報酬の合計額は、山本實が約五、〇〇八万円、被告人が約四、〇〇八万円、濱吉里志が約二、七〇〇万円、山本徳行が約二、四〇〇万円、野口忠夫が約二、四〇〇万円であり(なお、濱吉里志と野口忠夫との間の分配額について、野口忠夫がこれと異なる主張をしており、それによると濱吉里志が約四、四〇〇万円、野口忠夫が約七〇〇万円となる。)、谷博文が報酬を受け取つていないので、被告人が山本實に次いで二番目に多いか、又は濱吉里志とほぼ同格の高額の利得を得ていたものであり、これは本件各犯行で脱税請負グループ全体で取得した一億六、五〇〇万円のうち約二四・三パーセントを占めており、取得した利得金額、割合においても、被告人の犯情は極めて悪質である(田中健一関係について査察官調査書・二〇三丁の一四三表、濱吉里志の検察官調書・同丁の一七九八表裏、一八〇四表裏、山本徳行の検察官調書・同丁の二四五〇表裏、野口忠夫の検察官調書・同丁の二七五七裏ないし二七五八表、山本實の検察官調書・同丁の二〇二〇表裏、被告人の検察官調書・同丁の二二五九裏、谷村安脩関係について査察官調査書・同丁の一一七七裏、濱吉里志の検察官調書・同丁の一八三〇表、山本徳行の検察官調書・同丁の二四九〇表、山本實に検察官調書・同丁の二〇七四表裏、被告人の検察官調書・同丁の二二八七表、示談書・同丁の二九〇六表、吉田眞知子関係について査察官調査書・同丁の一一八四裏、濱吉里志の検察官調書・同丁の一八六〇表裏、山本徳行の検察官調書・同丁の二五二六裏ないし二五二七裏、野口忠夫の検察官調書・同丁の二七八三表裏、山本實の検察官調書・同丁の二一六一表ないし二一六二裏、二一五二表ないし二一五三裏、被告人の検察官調書・同丁の二三二二裏、示談書・二九〇八表)。

なお、吉田眞知子関係で取得した利得のうち一、〇〇〇万円は、山本實が被告人以外の他の共犯者には内密にして取得したものである。これについて、山本實は「将来、税務調査により修正申告をしなくてはならなくなつた場合に備えて資金をプールしておこうという話があつたが、濱吉里志らがなかなかこの話を実現させようとしないので、自分が濱吉里志らには内緒で一、〇〇〇万円を余分に取つておいたものである。」旨弁解しており、これに沿う被告人の供述もあるが、山本實の考えでこの一、〇〇〇万円を取得し、被告人にだけ事情を打ち明け、被告人もこれを了承していたもので、山本實と被告人を除く他の共犯者は、本件で取調べを受けるまで、このことを全く知らなかつたのである。(山本實の検察官調書・二〇三丁の二一一二裏ないし二一一四表、二一一九表ないし二一三七、二一三八表ないし二一四〇裏、被告人の検察官調書・同丁の二二九六表ないし二三〇〇裏)。また、このように将来の修正申告に備えて利得金の一部をプールしておくと言いながらも、その一方では、この一、〇〇〇万円を他の共犯者には内緒で取得する過程において、山本實が吉田眞知子らから脱税を請け負うにあたり決めた納税分と謝礼金との合計額と山本實が濱吉里志に伝達したその金額との間で一、四八二万円の差額を生じ、四八二万円の端数ができたところ、被告人と山本實は、これを二人で分け合つているのであるから、脱税請負グループの中で他の共犯者にも隠れて利得をむさぼる被告人の悪質性が十分に認められるのである(山本實の検察官調書・二〇三丁の二、一五三の表ないし裏、二一六〇裏ないし二一六二表、被告人の検察官調書・同丁の二三一一表ないし二三一二裏、二三二一裏ないし二三二二裏)。

6 本件の脱税請負グループは、昭和五九年五月ころ、被告人、山本實、全日本同和会大阪府連合会幹部濱吉里志、その輩下山本徳行及び野口忠夫との間で形成されたものであり、昭和六一年暮れころまでの約三年近くにわたり、他人の相続税、不動産譲渡所得税の申告に関し、被告人と山本實が相続税、不動産譲渡所得税の納税義務者から脱税工作の依頼を取り付け、濱吉里志及び山本徳行らが架空債務計上等の手口を用いて相続税の課税価格又は不動産譲渡所得を圧縮し申告税額を正当税額の一割ないし二割程度にする虚偽過少の申告書を作成し、これを全日本同和会の税務指導に基づく申告と称して所轄税務署に提出するという役割分担により、脱税工作を繰り返し、依頼者の納税義務者には納税資金及び謝礼金として正当税額の半分程度を負担させ、これから納税分を差し引いた残りの謝礼金を被告人及び山本實のグループと濱吉里志らのグループとで折半し、被告人らの取り分についてはこれを被告人と山本實の二人で分け合つていたものであり、被告人は、本件の三件以外にも約三五件の同種の脱税請負事犯に加担している。その報酬として被告人が得た利得は、本件の三件と約三五件の同種の犯行とを合わせると、総額で約一億五、〇〇〇万円にもなり、巨額の脱税請負報酬を得てほしいままに私腹を肥やし、不正に蓄財していたものである(濱吉里志の検察官調書・同丁の一七四九裏ないし一七五六裏、山本實の検察官調書・同丁の一八九九表ないし一九〇三裏、一九三〇裏ないし一九四九表、二一七四裏、二一七九表ないし二一八〇裏、山本實の公判供述・二〇四丁の一一八表、被告人の検察官調書・二〇三丁二一九三裏ないし二二一五、二二一六表ないし二二二四裏、二三二五表ないし二三二八表、被告人の公判供述・二〇四丁の一〇八裏ないし一〇九表)。このように、被告人は、常習的かつ半職業的に日常茶飯事のように脱税の請負を反復累行し、私利私欲のために申告納税制度の租税秩序に対する積極的な妨害工作を繰り返し、国家の租税収入をかすめ取つてきたものであり、常習性の点において、納税義務者たる脱税者とは比較にならないほどの悪質かつ危険な脱税請負人であると認められるのである。

7 このように、本件各犯行は、第一に、ほ脱税額、ほ脱率のいずれの点においても重大かつ悪質な大型脱税事件である点において、第二に、被告人らが納税義務者から脱税工作の依頼を取り付ける過程で、租税負担を少しでも軽減させたいと願う納税義務者の心理を巧みに利用し、金融機関に対する社会的な信頼まで悪用しながら、殊更納税義務者の納税意欲を阻害する勧誘活動を積極的に行つて脱税工作の依頼を取り付けている点において、第三に、架空債務の計上により課税価格を圧縮するという伝播性、模倣性が特に懸念される悪質な手口を用い、かつ、同和団体の運動の本来の趣旨、目的を著しく逸脱して、同和団体の運動を私利私欲のために悪用しながら、虚偽過少の申告を行つたものである点において、まさしく申告納税制度の租税秩序を根底から覆しかねないほどの反社会性、反道徳性が認められ、特に悪質かつ危険な脱税請負事犯であると言うことができる。そして、被告人は、もつぱら高額の報酬にありつくことのみを目的として積極的に本件各犯行に加担したもので、その動機、目的において酌量すべき余地が全くなく、果たした役割も重大であり、共犯者の中で山本實に次いで二番目に多いか、又は濱吉里志とほぼ同程度の高額の利得を得ていたものであるから、その犯情はとりわけ悪質で、その刑責は極めて重大である。そのうえ、被告人は、常習的に日常茶飯事のように同種の脱税請負を反復累行し、巨額の脱税請負報酬を得て不正に蓄財していたものである。先に第二の一において、脱税請負人の特質として、私利私欲のために申告納税制度の租税秩序に対して積極的な妨害工作を行うものであること、著しく納税義務者一般の租税倫理を荒廃させ、申告納税制度の根幹を脅かすこと、常習化の危険性を必然的に伴い、脱税の請負を反復累行して国家の財政的基盤を脅かす危険性が強いことを指摘したが、被告人は、これらの特質をすべてかね備えた典型的な脱税請負人であり、納税義務者たる脱税者と比較してもはるかに悪質であり、その反社会性、反道徳性はとりわけ顕著である。申告納税制度の租税秩序を維持していくためには、応報、特別予防、一般予防いずれの観点からも、被告人のような脱税請負人は、特に厳重に処罰する必要があり、本件の各納税義務者の犯情と比較しても、他の同種事案における脱税請負人の犯情と比較しても、本来ならば、被告人に対し、その懲役刑の執行は到底猶予されるべきではない。

8 他方、被告人については、本件三件の本税、延滞税が各納税義務者から全額納付されていること、本件三件によつて得た利得の全額を各納税義務者に返還しただけでなく、約三五件の同種余罪で得た利得についてもその大半を返還していること、本件三件については各納税義務者に課された重加算税のうち被告人の利得分に応じた各四分の一(合計三、一三三万二、一二五円)を負担していること、社会的制裁も受けていること等の被告人に有利な諸事情も認められる。

ところで、本件の各納税義務者たる共犯者に対する量刑を見ると、田中健一に対しては、懲役一年(執行猶予三年)、罰金二、六〇〇万円、谷村安脩に対しては、懲役一〇月(執行猶予二年)、罰金一、三〇〇万円、吉田眞知子に対しては、懲役八月(執行猶予二年)、罰金六〇〇万円の各判決が言い渡され、いずれも既に確定している。これらの納税義務者らの場合には、各犯行は単発的なものであり、常習性が認められないばかりか、むしろ被告人らの報酬稼ぎのために巧みに利用された面があることも否定できない上、被告人と同様に社会的な制裁も受けているのである。また、いずれも本税、延滞税、重加算税の全額を既に納付しており、脱税によつて得た利得以上のものを十分に吐き出しているのであるが、これらの納税義務者らにとつて有利な諸事情を十分に斟酌しても、脱税事犯が巨額の利益をむさぼる経済的利欲犯の特質を有し、特別予防、一般予防の観点からの配慮が特に必要な類型の犯罪であることから、納税義務者らに対し、十分な財産的苦痛を与える必要があるとして罰金刑が併科されているのである。この理は、犯情において納税義務者らよりはるかに悪質な被告人に対しては、より一層強く当てはまるものであることを深く認識すべきである。

被告人については、前述の被告人にとつて有利な諸事情を最大限に斟酌して懲役刑の執行を猶予するにしても、本件各犯行の悪質性、被告人の刑責の重大性にかんがみると、利得をすべて返還し重加算税の一部を負担し、社会的な制裁も受けているからと言つて、懲役刑の執行を猶予したばかりか、罰金刑も併科しないというのであれば、刑罰としては被告人らに対し何らの痛ようも感じさせないものである。長期間にわたつて脱税工作により不正蓄財を重ねてきたからこそ、利得の返還も可能となつたものにすぎず、利得を返還したからと言つて、懲役刑の執行が猶予されるのであれば、いくら脱税工作に加担して、巨額の利益をむさぼつたとしても、これによる不正蓄財さえ吐き出せばそれでこと足りるという結果になつてしまう。また、重加算税の一部を被告人らが負担しているとはいつても、本税、延滞税、重加算税の全額を納付した納税義務者たる脱税者の場合でも罰金刑を併科されていることとの均衡を失し、納税義務者たる脱税者よりも悪質な脱税請負人の方が実質的にはより寛大な取扱いを受けることになりかねない。そして、本件が申告納税制度の租税秩序を根底から覆しかねないほどの反社会性、反道徳性が認められる悪質かつ大胆な脱税請負事犯であり、動機、目的、果たした役割、利得額、常習性等の点において、被告人の犯情がとりわけ悪質であり、その刑責が重大であるにもかかわらず、被告人について懲役刑の執行が猶予されたのは、利得の返還、重加算税の一部負担等の事情が十二分に斟酌されたからなのである。それなのに、利得の返還、重加算税の一部負担等の事実を更に斟酌して、罰金刑も併科しないというのであれば、これを過大不当に評価し過ぎるものと言うほかなく、言い渡された懲役刑の刑期の長短を考慮しても、納税義務者らよりもはるかに悪質な被告人の方を実質的にはより寛大に取り扱い、科刑の均衡をも著しく失するものである。したがつて、懲役刑の執行を猶予しないのであればともかくとして、懲役刑の執行を猶予するのであれば、本件こそ、まさしく、罰金刑を併科して科刑の適正を図るべき事案であり、脱税請負行為が経済的に決して見合わないだけでなく、かえつてより一層の損失をもたらすものであることを被告人に十分に感得せしめるとともに、世間一般に対しても同様の自覚を促さなくてはならないのである。

以上に述べたとおりであるから、原判決が被告人に対し、懲役刑の執行を猶予したばかりか、罰金刑を併科しなかつたことは、科刑の適正を著しく失するものであり、到底承服することができない。

五 原判決が罰金刑を併科しなかつた理由の誤りについて

原判決は、罰金刑を併科しない理由を判決書には全く記載していないものの、同一の裁判所が共犯者の山本實に対して言い渡した判決(六三・三・三一言渡し。なお、同判決に対しても検察官控訴に及んでいるもの)では、「本件は、相続税法違反事犯であるうえに、被告人は納税義務者ではないこと、本件によつて得た利得はすべて返済済みで、加算税についても一部負担する出捐をしていること、共犯者との刑の権衡等の諸事情からすると、罰金刑はこれを併科すべきではないものと思料した。なお、検察官は、罰金刑を併科することにより世間一般に対する警鐘とする必要があるとも主張するが、人は犯罪を犯したがゆえに罰せられるべきであつて、その結果いわゆる刑の一般予防的効果が得られるのはともかく、これを本来的あるいは附加的目的として刑罰を科する考えには賛同しない。」と説示しており、この点についての被告人と山本實の情状がほぼ共通であると言つて差しつかえないのであるが、これらはいずれも失当であり、被告人に対し、懲役刑の執行を猶予しながら、これらと同じ理由により、安易に罰金刑の併科まで怠つたものであるとすると、到底承服することができないので、これらに対する反論を以下に述べておくことにする。

1 「本件は相続税法違反事犯である」と指摘している点について

山本實に対する判決は、相続税法違反事犯であることを罰金刑を併科しない理由の一つとして掲げているが、その実質的根拠を全く明らかにしておらず、その趣旨が不明である上、納税義務者たる共犯者については罰金刑を併科しており、同じ相続税法違反事犯でありながら、相続税法違反事犯であることが何故に脱税請負人についてだけ異なる取扱いをすることの根拠となり得るのか、その理解に苦しむところである。

そもそも、相続税法第六八条は、その第一項において「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、五年以下の懲役刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と規定し、その第二項において「前項の免れた相続税額又は贈与税額が五百万円をこえるときは、情状に因り、同項の罰金は、五百万円をこえその免れた相続税額又は贈与税額に相当する金額以下とすることができる。」と規定しているのであつて、その規定の内容は、所得税法、法人税法と全く軌を一にするものであり、相続税法自体が相続税のほ脱事犯に対する罰金刑の併科について所得税や法人税のほ脱事犯と異なる取扱いをすることを予定しているものとは考えられない。また、実質的に見ても、所得税や法人税が、日夜汗水流して労働したり、あるいは事業活動を行うことにより得た所得に課されるに対し、相続税は被相続人との親子など一定の関係に基づいて入手することになるいわば不労所得に対して課されるのであるから、むしろ相続税の脱税の方が悪質であるという考え方もあり得るところであり、更に相続税のほ脱事犯も脱税者に巨額の利益をもたらす経済的利欲犯の特質を備えている点において所得税や法人税のほ脱事犯とその性質が異なるわけではなく、かつ、同じように特別予防、一般予防の観点からの配慮が要請される犯罪類型であるから、懲役刑を科するにしても、その執行を猶予するなど、それだけでは刑罰としての苦痛、感銘力に欠けるような場合に、罰金刑を併科して財産的苦痛も十分に与えて刑罰として感銘力を確保する必要があることは、相続税のほ脱事犯であつても法人税や所得税のほ脱事犯であつても全く異なるところはないのである。

したがつて、原判決が罰金を併科しない理由として「本件は相続税法違反事犯である」と考えていたとすると、これは、明らかに失当である。

2 「被告人は、納税義務者ではない」と指摘している点について

罰金併科の要否については、税法上、納税義務者として納税義務を負担し、免れた税金に相当する利益の直接の帰属主体であつたかどうかという観点から、形式的に判断することは失当であり、実質的な科刑の適正を図る観点から決すべき問題である。

そこで、実質的な観点から検討するに、まず、被告人は、特定の納税義務者の意思決定に従い、その利益のために従属的に脱税工作に加担する経理担当者等とは全く異なり、もつぱら自己の利益を図り、高額の報酬を得ることのみを目的として、他人の納税に介入し、納税義務者らに対し積極的に脱税を勧めて脱税工作の依頼を取り付けた上、主導的に脱税工作に加担したものである。そして、その結果、本件各犯行では脱税請負グループ全体で約一億六、五〇〇万円の報酬を取得しており、これが本件各犯行にかかる不正申告により相続人全員について免れた約三億四、五〇〇万円のうち約四七・八パーセントを占め、被告人は右報酬のうち約二四・三パーセントを占める約四、〇〇八万円もの高額の報酬を取得している。このように、被告人は、ほ脱税額に対し高い割合を占める高額の報酬を取得し、脱税による利益を納税義務者と分け合つていたものであり、実質的に見れば、納税義務者とともに脱税による不正の利益を享受する主体と同視できるのである。

むしろ、これまでに述べてきたとおり、被告人の場合には、三年近くの長期間にわたり常習的に脱税の請負を反復累行し、私利私欲のために申告納税制度の租税秩序に対する積極的妨害工作を繰り返してきたもので、納税義務者らよりも更に顕著な経済的利欲犯の特質を認めることができ、申告納税制度の根幹を脅かす点において、納税義務者らよりもはるかに犯情悪質であり、その反社会性、反道徳性がとりわけ顕著なのである。したがつて、経済的利欲犯の特質に着目しながら、応報、特別予防、一般予防のいずれの観点からも刑罰としての実効性を確保するため、脱税事犯については、懲役刑を科するだけでなく、罰金刑を併科して十分な財産的制裁を与えなくてはならないという法の趣旨に照らせば、被告人については、納税義務者よりも有利に取り扱う理由は全くなく、納税義務者らの場合以上に厳しく処罰すべきであつて、懲役刑の執行を猶予するのであれば、当然罰金刑を併科して刑罰の実効性を確保する必要があると言わなくてはならない。

よつて、納税義務者でないことを根拠にして被告人に対して罰金刑を併科しなければ、かえつて科刑の均衡を失することは明らかであるから、原判決が罰金刑を併科しない理由として「被告人は、納税義務者ではない」と考えていたとすると、これも、明らかに失当である。

なお、法人税のほ脱事犯の場合、法人に罰金刑が科され、法人の代表等行為者には、懲役刑が科されるのみで、罰金刑を併科されることがないのが通常であるが、まず、大企業では、代表者等でも脱税による利益の帰属主体ではなく個人的利得を特に企図しない点では経理担当者等と同様であること、代表者等に対する罰金も企業が実質的に肩代わりしてしまえば行為者に対する制裁としての効果もなくなることがあり得ること、他方、中小企業では、代表者等の個人的企業の色彩が強く、代表者等が実質的な利益の帰属主体である場合が多いものの、法人に高額の罰金刑を科することがすなわち代表者等に対する十分な財産的苦痛になること等の諸事情に照らし、法人税のほ脱事犯では、法人に対し、高額の罰金刑を科することで科刑の目的が達成され、あえて代表者等に罰金刑を併科するまでもないのである。したがつて、他方では、納税義務者ではない法人の代表者等であつても、特段の事情により、実質的な科刑の適正を図る必要があれば罰金刑が併科されることもあり得るわけである。例えば、東京地方裁判所昭和五八年三月三日判決(判例時報一〇八五号一六〇頁)は、法人税のほ脱事犯で、被告法人が吸収合併により削減したため公訴棄却の決定がなされた後、被告法人の代表者で行為者であつた被告人に対し、懲役刑のほかに罰金刑を併科し、法人税法の罰金刑併科の趣旨について、「行為者に対して懲役刑を科したのみでは刑の感銘力が期待できない場合に、更に、罰金刑をも併科し、両者相まつて行為者に対する科刑の適正を図ろうとしたものと解される」と説示している。また、その控訴審判決の東京高等裁判所昭和五八年一〇月二四日判決(裁判速報二、六八〇号四三頁)、原判決を支持し、懲役刑のほかに罰金刑を併科した趣旨について、「納税意識の高揚を図るともに、納税者の不公平を是正し、かつ、悪質な大型脱税を防止するという一般予防の見地から、原判決は、被告人に対し、罰金刑を併科したものと認めるのが相当である」と説示しているのである。

3 「本件によつて得た利得はすべて返還済みで、加算税についても一部負担する出捐をしている」と指摘している点について

そもそも、脱税事犯に科せられる罰金刑は、その性質上、不正利益の剥奪を目的とするものではない。まず、不正利益の剥奪という目的を達成するためには没収又は追徴をもつて対処しようとするのが現行法の建前であり、没収、追徴と罰金刑とはその性質を異にするのである。また、納税義務者たる脱税者については、本税、延滞税、重加算税等を徴収することができるのであり、納税義務者がなお脱税による直接の不正利益を保有していることはむしろまれであり、納税義務者が脱税によつて得た不正利益を費消または隠匿などしているため、本税、延滞税、重加算税等を徴収し得ず、罰金刑を科して、代替手段としての労役場留置に処するしか対処のしようがないような場合にしか、罰金刑併科により不正利益を剥奪するという効果は生じないのである。そして、現在の裁判実務では、納税義務者たる脱税者については、本税、延滞税、重加算税等を全額納付した事案でも懲役刑を科するだけでなく罰金刑も併科することが通例化している。本税、延滞税、重加算税の全額を納付して利得以上のものを吐き出しても罰金刑を併科する趣旨は、前述のとおり、懲役刑を科しただけでは刑罰としての実効性に欠ける場合に財産的苦痛も与えて刑罰としての実効性を補完しようとするものであるとしか理解できないのである(なお、前掲の東京地方裁判所昭和五八年三月三日判決も同趣旨の説示をしている。)。したがつて、被告人についても、利得のすべてを返還し重加算税の一部を負担したからといつても、これを理由にして直ちに罰金刑を併科する必要がないとの結論が導き出されるものではなく、納税義務者たる共犯者との科刑の均衡を十分考慮しながら、被告人の刑責の重大性に照らし、利得の返還と重加算税の一部負担を斟酌すれば罰金刑を併科しなくとも刑罰としての実効性が十分確保されていると言えるかどうかを判断しなくてはならない。

そして、前述のとおり、本件の納税義務者たる共犯者らの場合には、その犯情において、被告人と比較すればはるかに酌量の余地があり、いずれも本税、延滞税、重加算税の全額を既に納付しており、脱税によつて得た利益以上のものを十分に吐き出しているが、それでも本件各犯行のほ脱金額、ほ脱率、手段方法の悪質性、被告人らに安易に脱税工作を依頼した納税義務者らの刑責にかんがみ、刑罰としての苦痛、感銘力を確保し、特別予防、一般予防の効果を挙げるため、罰金刑が併科されているのである。これに対し、被告人の場合には、本件が申告納税制度の租税秩序を根底から覆しかねないほどの反社会性、反道徳性が認められる悪質かつ大胆な脱税請負事犯であり、動機、目的、果たした役割、利得額、常習性等の点において、被告人の犯情がとりわけ悪質であり、その刑責が重大であることにかんがみると、応報、特別予防、一般予防いずれの観点からしても納税義務者以上に厳重に処罰されるべき事案である。本件の各納税義務者と比較しても、他の同種事案における脱税請負人と比較しても、本来ならば、被告人に対してその懲役刑の執行は到底猶予されるべきではないにもかかわらず、原判決がこれを猶予したのは、被告人が本件による利得の全額を各納税義務者に返還していること、本件三件については各納税義務者に課された重加算税の各四分の一を負担していることなどを十二分に斟酌したことによるものと思われるのである。その上、利得をすべて返還し重加算税の一部を負担したからと言つて、罰金刑も併科しないというのであれば、これを過大に評価し過ぎるものと言うほかなく、言い渡された懲役刑の刑期の長短を考慮しても、納税義務者らよりもはるかに悪質な被告人の方を実質的にはより寛大に取り扱い、科刑の均衡をも著しく失するとの非難を免れないものである。本件こそ、まさしく、利得の返還、重加算税の一部負担にもかかわらず、罰金刑を併科して科刑の適正を図るべき事案であることは明らかであると言わなくてはならない。

したがつて、原判決が罰金刑を併科しない理由として「本件によつて得た利得はすべて返還済みで、加算税についても一部負担する出捐をしている」と考えていたとすると、これも、明らかに失当である。

なお、被告人は、本件以外の約三五件の同種の犯行による脱税請負報酬の利得も全く各納税義務者に返還しており、その金額が約一億一、〇〇〇万円と多額であるけれども、余罪が多ければ利得の返還額も多くなるのは当然であり、余罪の利得返還を根拠に罰金刑を併科しないのであれば、余罪のある者が余罪のない者より有利に取り扱われると言う不合理な結論になるだけであるから、これが罰金刑を併科するかどうかの結論までも左右するものとはなり得ない。

4 「共犯者との刑の権衡」を指摘している点について

共犯者山本實に対する判決は、同人に対し罰金刑を併科しない理由として「共犯者との刑の権衡」を挙げており、おそらく谷博文について、検察官が罰金刑併科の求刑を行わず、裁判所も罰金刑を併科しなかつたことを念頭において、山本實に対して罰金刑を併科すれば共犯者間で刑の均衡を失すると判断したことによるものと思われ、本判決も同様な配慮があつたと思われる。

しかし、谷博文は、八光信用金庫の本店営業部部長であつたものであり、前述のとおり、昭和五九年夏から秋にかけてのころ、取引先の山本實から「相続税や譲渡所得税については架空債務計上等を計上して全日本同和会を通じて申告すれば納税資金と謝礼金を合わせても正当税額の半分程度で処理できる。」旨の説明を受け、その脱税工作の依頼者の紹介を頼まれたが、納税義務者が脱税によつて浮かした資金を八光信用金庫に預金してもらうことに魅力を感じ、脱税工作の依頼者を被告人に紹介したり、八光信用金庫弥刀支店支店長の松田忠信に対しても脱税工作の依頼者の紹介を頼んだりしていたものである。そして、本件のうち起訴された田中健一関係、谷村安脩関係の二件について、納税義務者らに対し脱税を勧め、被告人を納税義務者らに紹介し、その結果、同人が営業部長を務める八光信用金庫本店において、谷村安脩関係で、同人から五、五九〇万円、山本實から八〇〇万円の各預金をしてもらい、田中健一関係で、被告人から一、二〇〇万円、山本實から一、〇〇〇万円の各預金をしてもらい、合計八、五九〇万円の八光信用金庫本店の預金を獲得したほか、八光信用金庫柏原支店において、田中健一関係で、同人から六、九九八万円の預金をしてもらつており、これも合わせると、全部で一億五、五八八万円の預金を獲得したものである。

確かに、谷博文が金融機関に対する社会的な信頼を悪用しながら納税義務者らに脱税を積極的に勧め、納税義務者らを山本實に紹介したり、納税義務者らが脱税により浮かせた金を仮名預金として隠匿管理したりしていることは決して軽視するわけにはいかないが、本件の脱税工作全体における谷博文の役割、地位は、山本實や被告人と比較すると、やはり従属的なものにとどまり、本件の脱税請負グループにあつては周辺的な加担者にすぎず、その常習性の程度においても被告人に比較すればはるかに酌量の余地がある。また、谷博文は、本件に加担したことにより多額の預金を獲得するという経済的利益を得ているが、これはあくまでも同人の勤務先の八光信用金庫に帰属する利益であり、谷博文にとつてはこれによつて自己の営業成績が有利に評価されるであろうという間接的な利益にすぎず、被告人が多額の現金を自らに直接帰属する報酬として受け取つたのとは全く異なるものである。他方、谷博文が本件によつて得た個人的利得は、被告人が得た利得に比較すると金額的にはわずかのデパートの商品券だけであり、これも脱税の依頼者の紹介の謝礼というだけでなく、山本實らに対する融資の便宜を図つたことの謝礼でもあり、中元歳暮という社交的儀礼的要素もあつたものであるし、谷博文がこの商品券を得ることを企図して、本件各犯行に加担したものでもない(谷博文の検察官調書二〇三丁の二八八七表ないし二八八八表、山本實の検察官調書・同丁の二一七二表裏、二一七八表ないし二一七九表。なお、山本實の供述によると金額的には全部で四四万円相当のものである。)。

したがつて、谷博文については、懲役刑の執行を猶予しても、刑罰としての実効性がそれほど欠けるというわけではなく、あえて罰金刑を併科しなくとも、一応の科刑の適正が図られているのである。

むしろ、共犯者との刑の権衡という観点からすれば、犯情において被告人よりも酌量の余地がある納税義務者らに対しては本税、延滞税、重加算税を全額支払つていることを踏まえた上で罰金刑を併科しながら、犯情がより一層悪質な被告人に対し罰金刑を併科しなかつたことの方がはるかに量刑の均衡を失するものである。

以上のとおりであるから、原判決が罰金刑を併科しない理由として「共犯者との刑の権衡」考えていたとすると、これも、明らかに失当である。

5 「検察官は、罰金刑を併科することにより世間一般に対する警鐘とする必要があるとも主張するが、人は犯罪を犯したがゆえに罰せられるべきであつて、その結果いわゆる刑の一般予防的効果が得られるのはともかく、これを本来的あるいは附加的目的として刑罰を科する考えには賛同しない。」と指摘している点について

そもそも、検察官は、租税ほ脱犯について懲役刑を科した上で更に罰金刑を併科する趣旨、目的として、懲役刑を科しただけでは刑罰としての苦痛、感銘力が乏しく、応報、特別予防、一般予防いずれの観点からしても刑罰としての実効性が十分ではないような場合に、罰金刑も併科して財産的苦痛を与えることによつて刑罰としての感銘力を確保し再犯抑止や一般予防の効果を挙げることを主張し、被告人についても、本件各犯行の悪質性、危険性や被告人の犯情の悪質性に照らし、一般予防の目的だけでなく、応報や特別予防の目的も考慮した上で、刑罰としての苦痛、感銘力を確保するためには、被告人に対しては、懲役刑の執行を猶予する以上は、少なくとも、罰金刑を併科すべきであると主張しているのであり、一般予防の目的だけを根拠として罰金刑併科を主張しているのではない。山本實に対する論告で、検察官が「なお、脱税犯に対して課せられる罰金刑については、国の財産権の侵害に対する回復と言うよりも、脱税者の不正行為の反社会性、反道義性に着目し、これに対する制裁として課せられるものであり、(最大判昭和三三・四・三〇民集一二・六・九三八)、また、単に不正利益の剥奪のためにのみ課せられるものではなく、脱税行為が経済的に決して見合わず、かえつて損失をもたらすものだということを脱税者に思い知らせるとともに世間一般に対し同様の自覚を促すために懲罰や一般予防の目的で罰金刑が課せられるものであり、このことは、特に直接税ほ脱事犯について重加算税とは別個に罰金刑が定められていること、本税、延滞税、重加算税の全額を納付した脱税者に対してもほ脱額の約二割ないし三割の罰金刑を課すことが実務上通例化していること等に明白に窺われるところであり、この理は、被告人が納税義務者であろうと、脱税請負人であろうと同様であり、異なつた取扱いがなされる理由はない。」と主張したのも同様の趣旨である。したがつて、何故に、山本實に対する判決が「検察官は、罰金刑を併科することにより世間一般に対する警鐘とする必要があるとも主張するが、人は犯罪を犯したがゆえに罰せられるべきであつて、その結果いわゆる刑の一般予防的効果が得られるのはともかく、これを本来的あるいは附加的目的として刑罰を科する考えには賛同しない。」と指摘したのか、その理解に苦しむとしか言いようがない。

また、同判決は、犯罪を犯したこと自体に対する応報として刑罰が科せられるのであつて、犯罪の一般予防的効果はその副次的効果にすぎず、刑罰の目的ではない旨、絶対的応報思想に立脚したかのような説示をしているけれども、刑罰は、犯罪を犯したこと自体に対する応報であるというだけでなく、当該犯罪者の再犯を抑止し、一般的に犯罪を予防すると言う側面を有していることによつても正当化されるべきものであり、現在の裁判実務で適切な量刑を判断するに当たつて応報としての相当性とともに特別予防、一般予防の目的も考慮されていることは言うまでもないところであり、脱税事犯についてもその模倣性、伝播性に着目して刑罰の一般予防の目的を強調した裁判例には枚挙のいとまがないのである(たとえば、前掲の東京高等裁判所昭和五八年一〇月二四日判決《裁判速報二、六八〇号四三頁》、東京地方裁判所昭和五五年三月一〇日判決《判例時報九六九号一三頁》のほか、大分地方裁判所昭和五〇年一月二三日判決《判例時報七八六号一一三頁》)。

したがつて、原判決が罰金刑を併科しない理由として「人は犯罪を犯したがゆえに罰せられるべきであつて、その結果いわゆる刑の一般予防効果が得られるのはともかく、これを本来的あるいは附加的目的として刑罰を科する考えには賛同しない。」というのは、独自の見解であつて、明らかに失当である。

第三 結び

以上のとおり、原判決の量刑は、被告人に対し、懲役刑の執行を猶予した上、罰金刑を併科しなかつた点において、量刑が著しく軽きに失し不当であるから、速かにこれを破棄し、更に適正な裁判を求めるため、本控訴に及んだ次第である。

別表一

量刑調査表(1)

東京地方裁判所関係

<省略>

<省略>

<省略>

別表二

量刑調査表(2)

大阪地方裁判所関係

<省略>

別表三

量刑調査表(3)

京都地方裁判所関係

<省略>

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